志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ No.376 2015年8月15日 掲載分
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                        | 5歳の夏、なぜ鮮明にあの日の空の色を覚えているのだろう、みんなが安堵して吐いた息の色だったからか | 
                       
                     
                    
                    
                      
                        5歳の夏   
なぜ僕はあの日の空の色を覚えているのだろう 
僕は官舎の廊下に独りでいた 
20歳の兄はソ満国境近くの陣地にいた 
17歳の長姉は川越の女学校にいた 
13歳の次姉は杉並の女学校にいた 
母は台所でお昼の支度をしていた 
父は官舎と道を挟んで建つ職場にいた 
 
                         
                          なぜ僕は何度も何度も空を振り仰いだのだろう 
                            庭の青桐でアブラゼミが鳴いていた 
                            聞いているだけでジトジト汗ばんでくる 
                            空を見上げると一瞬爽やかさに包まれた 
                            どこまでも青が澄んで天上に届いていた 
                            その空に白い雲の色で思いでを描いた 
                            家族と団欒している楽しい思いでだった 
                             
                           
                          なぜ一人一人はみんな暗い顔だったのだろう 
                            大人なら負けると誰もが思っていた 
                            敵機が我が物顔に頭上を飛んでいる 
                            子どもの僕も大負けだと悟っていた 
                            どうにもならないから行くしかない 
                            銃後の民も死ぬことが行くことだった 
                            どこに行くのかは誰も解らないでいた 
                             
                           
                          なぜ今日も暗く始まったのに今は静かなのだろう 
                            青桐のアブラゼミも姿を消していた 
                            僕の鼻にふかした芋の匂いが流れてきた 
                            空腹を忘れるためにまた空を振り仰いだ 
                            天上に届く青のままだけど息苦しかった 
                            庭の木戸がパタンと開き父が入ってきた 
                            父は僕を見ずに廊下へ大股で歩いてきた 
                             
                           
                          なぜ父の声は静寂をポンと破って響いたのだろう 
                            「おい、戦争は今、終わった終わったぞ」 
                            台所から母が「本当ですか」と駆けてきた 
                            「本当だ。陛下が放送で仰せになられた」 
                            頷いた母が全身の力を抜いて廊下に崩れた 
                            僕は空を振り仰いでゆっくり深呼吸をした 
                        僕の息が澱みなく澄んだ青に溶けていった  | 
                       
                     
                   
                  
                    
                      
                          
                            
                              
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