パティオ広場の夜は更けて6 パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

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志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.9

 

パティオ広場の夜は更けて6


「太陽は罪なヤツ」のほか、サザンの曲を3曲付き合わされて、吾輩はようやくデーブから解放された。
築地塀の浮き彫りを足がかりにして元麻布プラトンレジデンスの外へ降り立ち、つかの間、思案に暮れる。
吾輩が束ねる元麻布グループは元麻布にいくつもあるであろうグループの一つに過ぎない。
そのテリトリーは、人間の感覚からすればたいした広さではない。
麻布十番の商店街から暗闇坂に入り、上がりきれば、そこは三つの坂が合するところになっている。
同じ麻布十番のパティオ広場方面から上がってくる大黒坂というのがあって、やはり、上がりきったところで暗闇坂とぶつかる。
暗闇坂から別のなだらかな上り坂が始まる。途中で平坦になって仙台坂上に至るが、そのなだらかな坂が一本松坂である。
大黒坂と一本松坂に挟まれたところに長傳寺という寺があって、その門前に一本松が生えている。
なんでも人間の世で言えば戦国とか江戸の頃から植え継がれてきたものらしい。
暗闇坂を上がりきってすぐに右折する道は、大黒坂を上がりきって始まる道でもあるが、この道はすぐに急な下り坂になる。
これが狸坂で、途中右側に十字架を掲げた中央の尖塔と左右の小尖塔のバランスが絶妙のセントメアリー教会が立つ。
狸坂がある道の左側と、この道と、往年の億ション、その裏手の元麻布プラトンレジデンスを挟んで平行に走る道、さらに仙台坂上寄りに平行に走る道の内側が元麻布グループの領域になる。
長方形で、短いほうの境界は仙台坂上に至る道と、途中で突き当たるが、狸坂の始まりあたりの横道が区切っている。
吾輩はわがテリトリー中央の道を少し歩いて、左側の駐車場に入った。
40台駐車できるのに、今、駐車しているのは3台に過ぎぬ。夜になっても、10台そこそこしか駐車しない。
屋敷街で、車通りの少ない閑静なところなのに、わがテリトリーにはもう一つ貸し駐車場がある。
商売にならぬのになぜあるのかは簡単な理由で、一つの駐車場は分筆相続を受けた遺族たちが家を建てるには狭すぎるし、すでに持ち家があるので共同経営の駐車場にして維持している。
もう一つのほうは一括相続を受けた遺族が邸宅を新築する機を窺っており、それまで駐車場にしておこうという算段だという。
吾輩が見る限り、このあたりの屋敷は2階建て3階建ての現代建築のもので、敷地もゆったりしていると思うが、20年30年前の昔を知る人間に言わせると、今ではお屋敷街とは言いがたいという。
昔は300坪500坪、あるいは1000坪クラスの敷地の屋敷が塀を連ね、庭木が森のように繁っていたらしい。
それが相続で細分化され、広壮ながら敷地に目いっぱい建てた邸宅ばかりになってきた。
それどころか、代々の住民がどんどん減り、よそ者の街になりつつあるという。
そのあたりの変容はこの地に住んで3年の吾輩にもわかる。
分筆相続もせず、遺族が協議して売り払って分けてしまったのか、マンションに変ってしまった元屋敷もある。低層集合住宅ながら、元麻布プラトンレジデンスもその口である。
吾輩は駐車場の塀に沿って中ほどまで進むと、
「キーオ、いるか?」
と、呼んだ。
ほどなく、塀の上にペルシャの血が混じったキーオが現れた。 「拾麿か。何かあったか?」
キーオは、短く、しかも、先っぽが鍵型に曲がった尻尾をひくりと立てた。
自尊心が強い5歳の雄猫である。
キーオの名は鍵〈キー〉型の尾に由来する。
もともとはこの近くにあるタンザニア大使公邸の職員の飼猫で、インド洋上のザンジバル島に生まれた。
その職員が帰国する際に、たまたまこの駐車場の隣にタンザニア特産のコーヒーを扱っている輸入業者が住んでおり、その家にキーオを託したのである。
キーオは毛並みからいつもタンザニアコーヒーの香りをたちのぼらせている。
吾輩はその香りを一瞬嗅いでから、おもむろに言った。
「モンちゃんのお母さんが死んだ。墨汁で溺死したそうだ」
「なんだって? 」
キーオは坐りなおした。
吾輩は白蓮の溺死の状況を詳しく話した。
「俺のお袋も溺死ではないが、可哀想な死に方をしてな。ザンジバル島の暴走野郎に轢かれて昇天したんだ」
そのときの悲しみが甦ったのか、キーオはぐすんと鼻を鳴らした。
「今夜、0時、パティオ広場のきみちゃん像の周りに集まってくれ」
吾輩は駐車場を出ると、建物こそ何年も前に取り壊されたものの、庭が長らく放置されて薮化した元屋敷跡に向かった。
何か込み入った事情があってのことだと思うが、いっこうに整地される様子もない。ここの庭に弁天丸が住んでいる。
弁天丸は俗に言えば野良猫ということになるが、ただの野良猫ではない。昼間は外出しないが、それには理由がある。
向こうから超肥満の赤猫がのたのた歩いてくる。
ちょうどよかった。元麻布プラトンレジデンス2号棟の3階に住むトトロだった。
「おい、どこへ行ってきたんだ?」
うつむいて歩く癖があるので吾輩が目前にきても気がつかないトトロに、一喝を浴びせるように声をかけた。
「えっ、おっ、なんだよ。拾麿さんか」
「どこへ行ってきた?」
「ウオーキングだよ」
「このくそ暑いのにか」
「竜子がとうとうインスリンを始めたんだよ。さんざん、主治医から運動しなきゃどんどん悪くなるぞ、と言われていたのにな」
竜子というのはトトロの飼い主の妻である。
臼のような体型をしている。もっとも、夫の重成も身長180センチ、体重120キロの肥大漢
で、トトロを家族とすると一家中で肥満している。
「竜子みたいにはなりたくないからな」
「三日坊主じゃ効果ないぞ。続けろよ」
吾輩は忠告して、
「モンちゃんのお母さんが死んだ。モンちゃんがひどく落ちこんでいる。それで励ます会をやろうと思うんだ。今夜午前0時、きみちゃん像の周りに集まってくれ」
「モンちゃんのお母さんの死因は糖尿病の合併症かい?」
「いや、溺死だ」
「なんだ」
吾輩は糖尿病恐怖症に陥ったらしいトトロに、じゃな、と言って駆け足で弁天丸の住む屋敷跡に急いだ。

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

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