パティオ広場の夜は更けて5の続き パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

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志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.8

 

パティオ広場の夜は更けて5の続き


前にこの部屋に入ったときは拘禁され、拷問を受けたようなものである。
吾輩は逃げ回るのに必死で、部屋の光景はほとんど目に入らなかった。
ただ、本や、DVDの山を飛んだり、もがいたりして崩しまくったことはよく覚えている。
吾輩は、今、あらためてこの部屋をひとわたり見て、あまりの荒涼とした光景に呆然とした。
本の山、DVDの山がマットレスの上に敷かれた万年床を二重三重に取り巻いているのである。
本の山は一応、雑誌類、単行本類と分けて築かれているが、値打ちのありそうな箱入り古書の数冊の上に月刊誌が10数冊重ねられ、さらにその上に文庫本が30冊前後、乗せられて不安定な塔状の山もある。
不安定と言えば、DVDの山の中には7,80枚ほどがずれて重ねられている見るからに崩壊寸前の山もあり、吾輩はその芸術的な危うさに思わずため息を洩らした。
細長い机にパソコンとCDプレーヤーが並んでいる。
その細長い机と直角をなす壁側には、富士山のように衣類の山が築かれている。
グレートデーブは凝り性で、衣類はすべてネットのショップや、オークションで購入している。
本もDVDもすべてネットで買っている。
凝り性であきっぽいから次々に購入し、あきればすぐ山の一部に加えるのだろう。
衣類の山のお隣にはカメラの山がある。いずれもアナログのカメラで、いっとき、収集に凝り、ネットで買いまくっていた。そのころ、沙苦里と綾がこんな会話をしていたものである。
「おい、綾、一台50万60万のカメラで何を撮るんだ?」
クレジットカード会社からきた明細を見て、沙苦里はいらだった声を上げた。
「さあ、私は知りませんよ、判官に訊いて下さいな」
「訊け、と言ったって、僕はもう4,5年も判官と会話がないんだ。きみはなんとか最小限のコミュニケーションはとれているだろう」
「買っているのは何十年も前のアナログのカメラばかりです。何かを撮るためではなく、
集めて飾って楽しむためのようですから」
「なんたる非生産的なやつだ。働かざるもの食うべからずの世にしなければならん」
沙苦里はロシアの年金生活者が旧ソ連時代を懐かしむように言ったが、自分名義のカードでの支払いを許しているのはこの甘父親にまぎれもない。
吾輩は気をつけながら本や、DVDの山の間を歩いて探索を始めた。
そして、すぐにフームと鼻を鳴らした。
本の山を一つ見ても、カフカの「変身」があるかと思えば、高樹のぶ子の「甘苦上海」があったり、アダム・スミスの「富国論」、北一輝の「日本改造法案大綱」なども見える。
哲学書が多い山に「ナニワ金融道」、白土三平の「カムイ伝」などの漫画がまじる。
DVDの山々も傾向がくみとれず、ミスチルのアルバムがあるかと思えば、ヘビメタのオレンジレンジの「上海ハニー」を挟んでドビュッシーの組曲「子供の領分」と倉木麻衣の「beautiful]があったりする。
しかし、ヒップホップ系はわりと好みのようで、「ケツメイシ」「ZEEBRA]」「KUREVA]らの曲が数多く積まれていた。
吾輩は山々を縫って歩きながら考えた。
昔のひきこもりはひきこもったら即世間とは没交渉になる。貧乏人の子は7つ8つから奉公に出されて、ひきこもりなんかしたくてもできなかったろう。
長者の子にはけっこうひきこもりがいたらしい。フィクションの世界の主人公だが、「三年寝太郎」もひきこもりだろう。
現代のひきこもりはネットで情報はいくらでも入手できる。
グレートデーブは深夜、家族が寝静まってからこっそり風呂に入ったり、トイレに行く。
トイレには昼間も行くが、それは吾輩は別にして家族が誰もいないときに限られる。
いつだったか深夜に通路でグレートデーブと金髪フグこと沙乃が鉢合わせしたことがあった。
「あら、こんな時間まで起きていたの?」
「ツイッターをやってたんだ」
グレートデーブが金髪フグの言葉に応えるのはきわめてめずらしい。
「ひきこもりなのに、そんなものやるの?」
「うっせえよ、ミクシーだってやるんだよ」
グレートデーブは金髪フグを押しのけるようにしてトイレに向かったが、パソコンの世になって本来のひきこもりはすでに死滅したのではないか、という感想を吾輩は持ったものである。
それだけに、以前のひきこもりより今のひきこもりのほうが一歩間違うと危険な存在と言える。
数ヶ月前、ひきこもりの息子が父親など家族を殺傷するという事件が起きた。
父親のクレジットカードでやたらネットショッピングしまくることにたまりかねて、家族がインターネットの解約を行った。
一般世間と自分をつなぐ唯一の利器をなくされた息子は、自分の存在を否定された、と思ったのだろう。ぶちキレておおそれた犯行に及んだ。
グレートデーブもその息子と似たところがある。
しかし、と吾輩は本とDVDの山々から抜け、左前足を浮かして考える。
読書や、音楽の傾向がくみとれないのは、グレートデーブ略してデーブが博覧強記型の才質を有している表れではないか、と。
吾輩の見るところ、並以下の金髪フグと違って、デーブのIQはかなり高い。
そのデーブがなぜひきこもりになったかについて、吾輩は綾への思慕の裏返しだろうと推測している。
一昨年、学校に行かなくても学力が遅れないように、と綾がデーブに家庭教師をつけたことがあった。
しかし、1ヶ月も経たないうちにデーブはヒステリーを起こし、家庭教師を部屋から追い出した。
家族は誰もその原因に気づかなかったが、吾輩には家庭教師に綾がなれなれしくするのにデーブが嫉妬してのことだとすぐに察しがついた。
だいたい、ひきこもりが始まった原因からして綾が絡んでいる。
中学生になったのに、綾はデーブの送り迎えを欠かさず行った。そのことを、マザコンと同級生たちにはやされ、ひきこもりが始まった、と吾輩は聞いている。
いきなり、CDプレーヤーが作動し、サザンの「太陽は罪なヤツ」がかかった。
とっくにうな重を食べ終えていたデーブは、そのリズムに合わせ、踊りだした。
この上の幸せはないと言わんばかりの成仏したような表情になり、どすどすと床を鳴らし、
お腹の贅肉をゆらゆら揺らしている。
「桑田ーッ、がんばれー、桑田ーッ、俺は待ってるぜ!」
デーブは踊りながら右手を突き上げ、絶叫した。

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

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