パティオ広場の夜は更けて4 パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

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志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.6

 

パティオ広場の夜は更けて4


モンちゃんは、ようやく号泣をやめた。
左前足を顎の下にそっと当て、遠くを見るように視線を左斜め上に上げると、
「墨のバケツで溺死したの」
と、ぽつりと言った。
吾輩は金色の瞳を濡らし、憂愁を翳るように滲ませた今のモンちゃんの表情にしびれた。
しかし、モンちゃんの言葉に衝撃を受けて我に返った。
「何々、墨のバケツで溺れ死んだって!」
「そうなの」
「なんということか」
吾輩は空に顔を向けて嘆いた。
人間にはあくびをしたようにしか見えないかもしれぬ。
吾輩はモンちゃんの母白蓮の死にように因縁じみたものを感じた。
白蓮の飼い主の女流書家小太刀川幽蓮は、ここ数年で人気書家になった。
何が人気かと言えば、白い屏風を何連も並べ立て、大バケツになみなみと入れた墨汁に箒のような大筆を浸し、ロックのリズムに乗って一気に雄渾に書き切る。
そのときの衣装も売りで、奇抜極まりないデザインで乳房などが透けて見える素材のものも好んで着用する。
つまりは作品そのものの芸術性より、作品を仕上げるパフォーマンス性が受けている。
もっとも、幽蓮の出世作は50号ぐらいの和紙に書かれた過去現代未来を表す「過現未」という作品で、特異な撥ねや、冠の筆使いが評価された。
ところで、この作品は幽蓮がしずみに電話で話したところによると、幽蓮が書きかけたまま目を離した隙に、白蓮が前足に墨汁をつけて悪戯で書き足したものだということである。これが権威ある書道展で認められ、その後も白蓮に足助けしてもらっているうちに作風を確立した。そして、パフォーマンス書法を編み出し、人気を不動のものにしたのである。
そうして幽蓮を世に出すきっかけを作った白蓮が墨汁をたっぷり入れた大バケツに落ち、溺れ死んだのも何かの因縁であろう、と吾輩はため息をついてモンちゃんに顔を戻した。
「母は幽蓮がアトリエを離れた隙に久々に悪戯書きをしようと思ったのかもしれないわ。
今はステンレス製の大バケツを使っているから、誤って落ちてしまったのね。幽蓮が戻ってきたときにはもう息がなかったらしいの」
モンちゃんは声を沈ませて、こう続けた。
「鎌倉の実家を出てここ元麻布へきたときにはもう一生母には会えないと覚悟したわ。でも、鎌倉の地に母が元気で暮らしていて、いつも私のことを想っていてくれる。そう思うだけで元気になれたの。その母がもうこの世にいないのよ。ああ」
モンちゃんは腹這いから横向きになり、四肢を力なく揺すって目を閉じた。
吾輩はモンちゃんの悲しみの深さを思い知り、かける言葉が見つからなかった。
この場はそっとしておいたほうがいい。吾輩はそう判断して静かにアジサイの浅い谷をあとにした。
モンちゃんをみんなで励ます必要がある。そうだ、元麻布グループだけではなく、麻布十番グループにも呼びかけて、モンちゃんを励ます会をどうやるか相談しなければならぬ、とあれこれ頭を巡らせながら、吾輩は夏目家に戻った。
リビングのソファに横になる。
一眠りしたら、吾輩が属している、というより、吾輩がシキリをしている元麻布グループの
仲間を訪ねて回らねばならぬ。モンちゃんを励ます会についての相談の集まりは、今夜午前0時、場所は麻布十番パティオ広場きみちゃん像の周りとしよう。
吾輩が属しているもう一つのグループ麻布十番グループへ知らせるのは、夕方でもいいだろう。
どっちみち、夕方近くに吾輩は沙苦里に自転車に乗せられ、麻布十番の沙苦里の仕事場に行く。
沙苦里は今日は休講日で、この日はかならず夕方近くに仕事場に行き、原稿を明け方まで書く。
今の沙苦里はいくつかの活字媒体にエッセイや、評論を書いているが、そのように注文がくるようになったのはいちおう名の売れた週刊誌である週刊文潮に「猫の目人の目」と題するエッセイを連載するようになってからである。
なに身辺雑記をタラタラ書いて締まりのない文章だが、自己愛的に他者を嘲笑し、俎上に乗せる精神は豊かで、そこがミソミソッと笑える、と教養度いたって並の読者には支持されているらしい。
猫の目、とタイトルにも入れているように、吾輩をよく登場させる。
それはいいが、吾輩を見る目が乱視気味で腹が立つことこの上ない。
先週の号にも、わが家の猫は性格が悪い、と書いた。
理由は、私の膝に乗って居眠りするのを好むが、屁をこくので閉口する、とあった。
飼い主に対して行儀が悪いのは性格が悪い証拠だろう、と続けていた。
おいおい、沙苦浬よ、お前が無音でとびきり臭い屁をするのだってば。猫族にはたまらん臭さよ。それでショックがきて溜まっていたガスがズバッと出るのよ。
ともかくも、沙苦里は週刊文潮に連載するようになって生意気にも仕事場を作ったのである。
まっ、そのお陰で吾輩も麻布十番に仲間ができ、その仕事場をわがセカンドハウスにすることもできた。
沙苦里は意外と利用できる。
おう、睡魔くんがきたぞ。さあ吾輩を心地よく眠らせてくれ。

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

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