パティオ広場の夜は更けて2 パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

直木賞・絵本・児童書・作家|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場直木賞 絵本 児童書 作家|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場 ぞうをクリックして、Web絵本「ぞうのこどもがみたゆめ」をみてね。 ◆みつこおばさま◆ クリックすると、全国読み聞かせ・講演イベントスケジュール集がみれますよ。 ◆志茂田隊長◆ Web絵本読み聞かせ劇場へようこそ。ぼくをクリックすると、プロフィールが見れるよ。 クリックするとトップページに戻るよ。 ぼくをクリックして、Web絵本「ひかりの二じゅうまる」をみてね。 わたしをクリックして「Web絵本」がみれるよ。 直木賞 絵本 児童書 作家|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場 白鳥をクリックして、Web絵本「つきとはくちょうのこ」をみてね。 ぼくをクリックして「Web絵本」がみれるよ。

志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.3

 

パティオ広場の夜は更けて2


今、吾輩は庭の隅の日陰に横たわり、朝食後のお腹を休めている。
沙羅双樹の若木が作る日陰は、庭の大部分をおおっている芝生に水が打たれてまもなくのこともあって涼しく心地よい。
しかし、この涼しさもあと1時間ほどだろう。酷暑が続いており、今日も日中は35度を超えることが必至だからだ。
それまでこの日陰でしばしの惰眠をむさぼりたいが、どうやら食べ過ぎてお腹が重く睡魔の囁きがいまだない。
食べ過ぎたのは昨日、綾が広尾のナショナルスーパーマーケットで見つけて購入した新発売のキャットフード「霜降ウルトラSS]のせいで、これがなんとも美味であった。
ウエットタイプで、主原料は鹿児島牛の霜降り肉。初物のキャットフードなので、先程、伊万里の皿に盛られて供されたとき、吾輩は念入りに匂いをかいだ。
吾輩は人間のやることに全幅の信用を置いておらぬ。宮崎の口蹄疫騒ぎで殺処分になった牛の肉が一部闇ルートに流れたとしたら、そろそろキャットフードあたりに姿を変えて市場に出てきてもおかしくはない。
しかし、怪しい匂いはせず、数種の香辛料の匂いが吾輩の鼻腔にふくいくと忍び入り、思わず陶然となった。どうやら、マタタビのエキスも混合されていたようである。
吾輩はめずらしくがつがつと貪り食い、あっという間に平らげていた。
それに気づいて、綾は、
「あら、拾麿、そんなに美味しいの。高かったのよ、それ。主人にも食べさそうかしら」
と、言いながら伊万里の皿にもう半盛り、追加してくれたのである。
沙苦里は変なやつで、ドライタイプのキャットフードを、ヘルシーであきがこない、とカリカリぽりぽりかじりながら晩酌をやる。
沙苦里は真夏でも冷房のほどよく利いたところで芋焼酎のお湯割を好んで飲むが、その芋焼酎のお湯割りにドライタイプがことのほか合うとのことである。
しかし、ここで懺悔しておくが、沙苦里がドライタイプを芋焼酎のお湯割りの友にするようになったのはこの吾輩に因がある。
吾輩が夏目家に入ってまもなくの頃、綾はくる日もくる日もドライタイプのキャットフードを出してきた。この女は猫を飼った経験がないゆえ、このあたりかしら、と浅はかに考え、ドライタイプばかりを並べた棚から大量に買いだめしたにちがいない。
吾輩はキャットフードなるものをそれまで知らなかった。
母乳期を経てお女中が作る離乳食で育っている。ほう、吾輩の離乳食を知りたいか。
1、2例を上げると、やわらかく炊いたご飯に干し鮑を戻して細かく刻んで混ぜ込んだものとか、鱧の身をほぐして炊き込んだものとかで、かなり風味に凝ったものだった。
その吾輩だからドライタイプをひとかじりしただけで、そのあまりの無味乾燥ぶりに飛び上がった。
以来、2度と口にせぬ。しかし、典型的なKYで、しかも、だいぶ感性にズレがある綾は、何日も伊万里の皿に山盛りになったままのドライタイプのキャットフードを見て、
「京都のお屋敷から連れてこられて環境が激変し、食欲がないのね」
と、呟いたきりだった。
そろそろ生後3ヶ月を迎えるころのことで、旺盛に食べて体を作らなければならない時期の吾輩が何日も食べなかったらどういうことになるのか。この綾の想像力の欠如はいかんともしがたい。
吾輩は家人の目を盗み、食前食後のテーブルから好みのものをちょっとずつ失敬して飢えをしのぐにはありあまるものを摂取し、体を作ってきた。
いつまでこういう盗み食いが続くのか、といささか吾輩の心も沈んできたときに、烏丸のお女中から綾に電話がかかり、吾輩の様子を訊いてきた。
吾輩は綾の応対に聞き耳を立て、お女中が砂御門家歴代の飼い猫のレシピを教えたことを悟り、右の前足で胸をなでおろした。
人間はほっとしたときの表現としてこの言葉を使っているが、われら猫族はこういうときほんとうに胸をなでおろす。
このとき、お女中は、吾輩の母上が歴代のレシピの料理のほかにもウエットタイプのキャットフードでお気に入りのものが2,3銘柄あることも教えたらしい。
それからは歴代レシピの食事と、ウエットタイプのキャットフードが交互に出るようになった。
しかし、綾の料理は想像力の欠如を如実に反映して食えたものではなく、吾輩はいっとき無理して食道に押し込んでいたが、やがて、見向きもしなくなり、ウエットタイプのキャットフードのみを食するようになった。
料理というものは食材をどう組み合わせ、どのように調理するかを想像し、味も想像し、そうして手際よく創造していくものだ、とつくづく思った。
レシピを脇に置き、その通りに作ってもけしてうまい料理はできぬ。料理をせぬ猫がこう言ってはおこまがしいが、人間を観察し続けて3年、猫族としての洞察力を駆使して得た結論に誤りはない。
おう、なぜ沙苦里がドライタイプのキャットフードを好物にするようになったかの本題に戻る。
綾は伊万里の皿に山盛りにされたドライタイプのキャットフードから吾輩がひとかじりした1個を捨ててなんの気なしに流しの調理台に置いた。不要になったので、よその猫にあげるつもりだったのかもしれぬ。
綾はわりと気前はいい。
その夜遅く、沙苦里はかなり深酒して帰宅した。どんなに酔っ払っていても、騒ぐことはせず、玄関の鍵も静かに開け、泥棒みたいに抜き足差し足でリビングルームに入ってくる。
寝る前にチョコレートケーキをぺロリと平らげるなど例によってズレはあるものの、健康ライフを実践し早寝早起きの綾を起こすと、最低、枕は飛んでくる。
それで抜き足差し足になるが、沙苦里は自分の姓は使っていても実質的には婿に入ったようなものなのである。
この元麻布の一画で4LDKの低層共同住宅を購入しようとすれば、ゆうに億を超える。
綾の実家が購入して沙苦里になんと2千万円弱で転売したが、それは只で貰うのはいやだと沙苦里が駄々をこねた結果だという。
ま、ほかにもなにかにつけ夏目家は綾の実家に面倒を見てもらっており、その実家の権勢をかさにきて綾は沙苦里を下僕のように扱うことがあり、見ていて哀れを催すことがある。
そのときは空腹だったと見え、なにかないかなにかないか、綾、なにかないか、と熟睡中の綾には聞こえるべくもない細い声で呟き回りながら、キッチンをうろつきまわった。
そうして、伊万里の皿に山盛りにされたドライタイプのキャットフードに気づくや、
「おう、ツミレか、明日は鍋か」
と、言いつつ、3個いっぺんに口へ放りこんだ。
バリバリむしゃむしゃ平らげ、
「なんだ、クッキーか。でも、素朴な味わいで、文化を感じる」
と、大きくうなずいた。
そのあと、速射砲弾を口中へ撃ち込む勢いでまたたくまに食べつくした。
吾輩は食卓の椅子の一つで薄目を開けて観察していたが、その早業に度肝を抜かれたものよ。
おそらく沙苦里自身もその己が早業に気づいていなかったのではないか。
それがキャットフードだったことは次の日に知ったようだが、以来、沙苦里はドライタイプのそのキャットフードを座右のつまみにするようになった。
お腹が重い。これは夕食抜きか、と吾輩は尻尾を振り上げ、その先っぽでオイデオイデをした。
別に誰かを呼んだわけではなく、早くお腹が軽くなるためのおまじないである。
沙苦里がステテコ一枚の姿で芝生に出てきた。当年とって48歳、見っともないほどではないが、少し腹が出てきた。
ステテコは薄いオレンジ色で、デザインもすっきりしている。本人はお洒落を自認しており、このステテコはファッションのつもりらしい。
左手に巻尺を握っている。沙苦里は直立不動になると、その巻尺で腹囲を測り始めた。
慎重に測り、恐る恐る指先でつまんだところの目盛を見る。
「どうしたことか、1・9センチもオーバーではないか」
かすれた声を洩らし、ガン宣告を受けた人のような顔をした。
メタボかそうでないかの基準を1・9センチ超過したらしい。
その基準を1・9センチ超過したら1・9センチ足りないより恐るべき不都合が生じるのか。
どうも人間は無意味のことに執着し、とらわれ過ぎ、精神を消耗させる癖がある。
沙苦里は測り直しにかかる。なんと今度は思い切り腹を引っ込めた。
今度も恐る恐る指先でつまんだ部分の目盛を見て、パッと顔を輝かせ、
「ヤホッ、やったあ、メタボ数値より1・5センチ少ないぞ!」
と、叫びざま、巻尺を放り投げた。
そのあと、沙苦里式減量体操を始めた。なに、「崖の上のポニョ」を歌いながら上下に跳躍するだけのこと。
リズムに合わせるかのように、お腹の贅肉がポニョポニョ上下する。
吾輩はばからしくなって体を精一杯伸び縮みさせて沙羅双樹の若木の下をあとにした。
リビングに入ると、遅い朝食をすませた沙乃がショルダーバッグを提げて出て行くところだった。
この金髪フグも19歳になる。松竹梅女子大の1年生で、3年前より身長が5,6センチ伸び、すらりとした体型になっている。
顔も両の頬がぶうっと膨らんでいるところは変っていないが、埋没していた鼻がやけに高くなっている。両の頬を波にたとえれば波間から鮫が三角鰭を出しているように見える。
これは成長したわけではなく、今年の春休み、アメリカへ旅し、帰ってきたら高くなっていたのである。
向こうで隆鼻術を受けてきたわけで、沙苦里と綾は歓んでクレオパトラだの小町だのと騒いだが、吾輩の見るところ無残に自然を破壊し、バランスを崩し、もとから性格悪げだった表情がチョウ底意地悪げになつている。
吾輩があらためてその鼻を見上げたのが気に入らなかったのか、金髪フグは、左足の甲に吾輩の腹を乗せ、
「どきな」
と、一声。とたんに、吾輩は1・5メートル先に放り出されていた。
「駄目でしょう、乱暴しちゃ」
ソファでケータイメールを打っていた綾が顔を上げて叱ったが、そのときはもう金髪フグはショルダーバッグを揺らしながら玄関を出ていた。
吾輩は知っている。
あのショルダーバッグに常に常備されているものはケータイとピルだということを。
吾輩はソファに上がり、またメールを打ち始めた綾のその内容を盗み見した。
 
それでは判官ちゃんの言うとおり、お昼は野田岩のうな重にしましょう。
デザートは桃にしますか、それとも・・
 
金髪フグの弟の判官は17歳になる。本来なら高校2年生だが、学校には行っていない。
実は吾輩が夏目家に入る半年ほど前からひきこもりになり、今もってそれを続け、この家の1室にひきこもっている。
その判官と綾はメールでコミュニケーションをとっている。
今この家の者でたとえメールにしろコミュニケーションをとれるのは綾しかいない。
吾輩はしめたと思った。
判官の食事はその部屋のドアの前に置かれる。綾が立ち去ってからドアが開けられ、食事は部屋の中に取り込まれる。その間、一瞬の空白が生まれる。
そのときに、吾輩はご馳走調達の仕事をするわけだ。
突然、吾輩は両耳をぴくつかせた。
ある気配を感じたからで、それは2号棟の2階に住む白猫モンブランがこちらへ近づいてくる気配だった。
吾輩はそわそわして、おちつかずしきりに顔をソファにこすりつけた。

3に続く

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

もっと詳しく読みたい方はこちらへアクセスしてね!
http://plaza.rakuten.co.jp/odata325juk/diary/

【←隊長のブログ作品集・一覧に戻る】
Copyright© Office Shimoda Kageki 2016 All Rights Reserved.