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志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.16

 

可もなく不可もなくでは不満が残る2


大蛇川はむっつりしている。
変な外人の流暢な日本語と物知りぶりが鼻につくのかもしれぬ。
オハマは生唾を呑み込む音を響かせてから舌を翻してのしゃべりに戻った。
「今から30年以上も前のことになりますが、北海道の新聞に一つの興味深い記事が載りました。岡そのさんという女性が野口雨情作の童謡(赤い靴〕に歌われている女の子はまだ見ぬ私の姉です、と名乗り出たことをもとにまとめられた記事でした。そのさんは鈴木志郎、かよの間に生まれました。小樽が生地です。当時、鈴木志郎、かよともに故人になっていましたが、そのは、以降、敬称は略しますよ、そのは生前のかよからあなたには11歳違いのきみという姉がいてアメリカで暮らしていると聞かされていました。札幌時代、野口雨情家と隣同士できみのことを雨情に話したことがある、とも聞かされていました。そのが言うにはかよは亡くなるまでよく[赤い靴〕を口ずさんでいたそうです。ここで頭に入れておいてほしいのは、この時点でそのはきみと自分は同胤同腹の実の姉妹と思い込んでいたことです。かよはきみの出自について本当のことは伏せていたものと思われます。また、鳥居坂教会の孤女院で9歳の生涯を閉じたことも知りませんでした。さあ、お立会い・・」
オハマが突然、腰を浮かしたので、沙苦里はのけぞり、大蛇川は頬の肉をひくつかせてオハマをにらみつけた。
「いや、つい熱が入り過ぎました。腰を下ろします」
オハマは腰を下ろしてしゃべり続けた。
「その記事を読んだ系列のテレビ局のプロデューサーがきみちゃんの足跡を辿ってドキュメント番組を作ることにしました。そうして取材に入り、きみちゃんを養女にしたという宣教師を探し始めました。結果は特定できなかったのですが、もしかしたらこの人ではないか、という人物は浮かび上がりました。それが明治31年に来日し、同38年から39年にかけて一時帰国して再来日し、同41年に帰国したヒュウエット師です。それでアメリカに取材にいくことになったのですが、その前にきみちゃんの生まれてからの足跡を追っていて浮かび上がった事実に制作スタッフは愕然としました」
「なんで愕然としたのかね。想定したシナリオに合わない事実が出てきてしまったのかね?」
沙苦里が指で鼻の脂をこすりとりながら訊いた。
「正解ですよ。実はこのときの取材で岩崎きみが実在していたことも始めてあきらかになったわけですが、きみちゃんは明治37年、2歳のときに佐野安吉の養女になっています。佐野安吉はかよの母せきが再婚した相手です。つまり、かよの義父、きみちゃんの義祖父に当たります。きみちゃんは明治37年9月以降から同38年12月までの間に、東京港区旧永坂町50番地にあった鳥居坂教会の孤女院に預けられた可能性が大ですね」
「ずいぶん大雑把なことですな」
大蛇川が腕組みして、ウフウフと笑った。
「きみちゃんが死ぬまで孤女院にいたことは鳥居坂教会側の記録でわかるんですが、引き取った年月日の記録がないんですよ。鍵は佐野安吉です。この男は清水一帯では悪名高いワルでした。鼠小僧をもじって清水小僧と自称していましたが、51歳のときせきの連れ子かよを手篭めにして孕ませたという・・」
「オハマさんよ、ちゃんとした日本語を使ったらどうだい? 妊娠させたのほうが品格があるだろう」
大蛇川が噛み付いたが、それに沙苦里が左手の親指と人差し指の爪で鼻毛を引っこ抜きながら異を唱えた。
「いや、孕むが下品な日本語とは言えんぞ。腹膨らむ〜ハラムで語感もいい」
「さすがは夏目先生、人間科学部的解釈です。話を続けます。あくまで、一説に過ぎませんが、ほんとうなら佐野安吉は美味しい親子丼を食ったけしからぬやつ・・」
吾輩が思うに、オハマは日本語に流暢なあまり、日本語の使い方がついすべってしまうようである。
大蛇川が舌打ちしたが、オハマは気に止めることもなくしゃべり続ける。
「きみちゃんが生まれたときには窃盗で刑務所に入っていました。この佐野安吉がきみちゃんを養女にしたのが明治37年9月19日、そして、佐野安吉に伴われ、かよが2歳年下の辰蔵とともに北海道に渡ったのが記録によると、明治38年12月のことでした」
「つまり、その間にきみちゃんは旧永坂町の鳥居坂教会の孤女院に預けられ、そのままそこで生涯を閉じたということ。渡道の事実はない、ということだね?」
「おっしゃる通りです。佐野安吉は一足先に北海道へ流れていって、洞爺湖に近い旧真狩村今の留寿都町の平民社伝道開拓村に縁ができ、かよと辰蔵を迎えにきたわけです。そうして、かよと辰蔵ともども伝道開拓村に入植したにもかかわらず、佐野安吉はそこに居ついた形跡はありません。北海道の刑務所に入ったという説もありますね。いずれにしろ、北海道でのきみちゃんの足跡はその片鱗さえ見つかっていません」
「すると、きみちゃんは実在していたが、[赤い靴〕とまったく無縁だということかな?」
「はい」
オハマがうなずくと、大蛇川がまた噛みついた。
「異人さんのくせして、日本人の夢を壊すなよ」
「ままっ、話はまだ終わっていませんので」
オハマは動じない。

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

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