パティオ広場の夜は更けて9 パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

直木賞・絵本・児童書・作家|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場直木賞 絵本 児童書 作家|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場 ぞうをクリックして、Web絵本「ぞうのこどもがみたゆめ」をみてね。 ◆みつこおばさま◆ クリックすると、全国読み聞かせ・講演イベントスケジュール集がみれますよ。 ◆志茂田隊長◆ Web絵本読み聞かせ劇場へようこそ。ぼくをクリックすると、プロフィールが見れるよ。 クリックするとトップページに戻るよ。 ぼくをクリックして、Web絵本「ひかりの二じゅうまる」をみてね。 わたしをクリックして「Web絵本」がみれるよ。 直木賞 絵本 児童書 作家|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場 白鳥をクリックして、Web絵本「つきとはくちょうのこ」をみてね。 ぼくをクリックして「Web絵本」がみれるよ。

志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.13

 

パティオ広場の夜は更けて9


ピエロが着るようなオレンジ色の水玉のパジャマに身を包み、真っ白い髪を振り乱した老女が雑色通りを斜めに横切り、パティオ広場に向かってくる。
怖い表情で、目はうつろだった。
「ばあちゃん」
と、トン坊は声をかけた。
むろん、人間にはニャアとしか聞こえない。
90近いと聞いているが、足腰は実にしゃんとしている。
焼肉屋ポソンの経営者金村岩堅の母親で、岩堅の妻と折り合いが悪いという。
「去年あたりから認知症の症状が出だしたんだ。この頃、毎夜、徘徊しているんだよ」
トン坊が困ったような顔になった。
ポソンのばあちゃんは広場に上がると、ケヤキの一本の幹を右手で巻くように抱いた。
それから、左手をかざし、ケヤキを抱いた右手をすべらせながらケヤキの周りを回りだした。
ただ回りだしたのではない。
気管に飛び込んだ煎餅のカケラでも吐き出すような勢いで、しゃがれた声を吐き出し、何か歌いだしたのである。

プーニョ、プーニョ、プニョ、くじらの子〜

怖い表情で回りながら無心に歌うばあちゃんに、吾輩たちはあっけにとられた。
午前0時を過ぎたとは言え、パティオ広場の周辺は人通りが途絶えたわけではない。
酔客や、アベックが立ち止まり、口をあんぐり開けた。
雑色通りを背にすると、左手に道を挟んで明け方までやっているザ・ボエムというイタリアンの店がある。
ビルの1,2階を使ったガラス張りの店で、その店のテーブルにいた客たちも一斉に視線を注いだ。
その店の客から見ると、パティオ広場は野外ステージと化している。
ばあちゃんの声が震えを帯び、哀愁に充ちてきた。
表情も悲しげに幼いものを滲ませている。

パーク、パクパク、パクーンパン、おやつはいいな
食べちゃおう!

雑色通りから中背ながら胸板が厚く、上体が煉瓦のような中年男が駆け込んできた。
「畜生、ここにいやがったか。恥っさらしめが、いい加減にくたばりゃいいのに」
中年男は、いきなり、ばあちゃんの頬に平手打ちを浴びせた。
ぎゃっ、とばあちゃんは叫んでケヤキから離れた。
岩堅だ、トン坊が呟いた。
「うう、誰かと思えば、わが息子ではないか。くやしーくやしいぞ。岩堅、お前もか」
ばあちゃんは全身を硬直させ、わなわなと痙攣を始めた。
「何、ブルータスみてえなこと言いやがる。いい加減に世話焼かせんな」
岩堅は硬直したばあちゃんの体を丸太のように担いで雑色通りに出ると、善福寺方面へ姿を消した。
「岩堅の女房はね、ばあちゃんに罵詈雑言を速射砲のように浴びせるんだ。岩堅は黙って見ていたんだが、徘徊が始まってからは虐待をするようになった」
トン坊の話に、みな耳を傾けた。
「人間はどうして実の親や、子を虐待するのかしら?」
ソンギリが左前足で蚊を追っ払いながら訊いた。
「そりゃ、おめえ、食減らしだべ」
フーテンのノラがペロッと口の周りを一舐めして言った。
「わしらからするとな、人間社会は家族が単位で長いことやってきた。絆とかなんとか無意味なものを接着剤にしてな」
おそらく日本の猫でも指折りの物知りである大家が、得意の長広舌を始める気配に、みんな大家に寄ってきた。
「ところが、核家族化を経て、その核家族の絆さえ希薄になってきた。となるとだな、三世代家族の絆と暮らし方を知らぬ核家族は余計な世代を排除する傾向が強くなる。なあ、トン坊、金村家は子供がいたな?」
「うん、大学生の息子と、高校生の娘がいる」
「三世代家族だ。ばあちゃんは邪魔なんだよ。だから、無意識裡に排除の論理が働いて邪魔扱いして、それがエスカレートして虐待が始まる。国が高齢者を手厚く遇する施策をとればいいが、この国は高齢化社会が進む一方で高齢者を青壮年層が企業年金や、保険料の支払いで支える仕組みが崩壊に瀕しているんだ。国も末期高齢者、いやいや、後期高齢者か、そんな造語を作ってまで保障の制限をしている。要するに、ぐだぐだ長生きして貰いたくないんだよ」
「幼児虐待なんかどう考えますか。私の生国タンザニアでは親がわが子を死に至らしめるなんて聞いたことがありませんね」
キーオが尻尾をピンと立てて口を挟んだ。
「今の若い親は先に希望が持てず、刹那の快楽に走る。だから、自分が大切なんだよ。母性、父性を喪失して子育てが苦痛になっている。じいちゃんばあちゃんが同居していた時代はな、じいちゃんばあちゃんから暮らしの知恵、子育ての知恵を伝えられた。今の若い親は核家族で生まれ、育った者が多い。生活の厳しさもあって子育ての期間を乗り越えられないんだ。そこへいくと・・」
大家は言葉を切って一息入れた。
「わしら猫族はいかに高尚か、ということだ。わしら猫族は子育ては過不足なく、きちっとする。義務だからな。義務がすんだ後は子に自立をうながす。子は孤になり、個の生き方を身につけていく。わしらの優れた点はそこにある。もたれさせず頼らせず、もたれず頼らずだ。
こうしてコミュニケーションをとることもあるが、孤の崇高さを知り、個に生きる術をわきまえている。しかし、愚かな人間たちもこれから先、単身者がぐんと増えるので、孤と個の素晴らしさを学習していくかもしれんな」
「あっ、なんだあ、あいつら!」
ツキノワが素っ頓狂に叫んだので、みなツキノワが見ている方角を見た。

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

もっと詳しく読みたい方はこちらへアクセスしてね!
http://plaza.rakuten.co.jp/odata325juk/diary/

【←隊長のブログ作品集・一覧に戻る】
Copyright© Office Shimoda Kageki 2016 All Rights Reserved.