パティオ広場の夜は更けて8 パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

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志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.11

 

パティオ広場の夜は更けて8


午後3時、吾輩は沙苦里の漕ぐママチャリのハンドルの前についている籠に入れられ、沙苦里の仕事場に向かった。
どうもこれは吾輩にとって苦痛な行である。
吾輩は雄猫だし、猫一倍好奇心が強いので、その行動半径は広い。
麻布十番2丁目にある沙苦里の仕事場までなら、夜中なら3分で駈けきる。
でも、今はまだ気温が33度はある。毛皮を着ている身としては、この炎天下に
自前の足では駈けるのも歩くのもご免蒙りたい。
二本足で立って歩き、お腹も顔もはるか上に位置する人間には、吾輩が舗装道路を歩くと、どれだけの照り返しがあるか想像もつくまい。
まさに殺猫的であるのよ。
仕方ないから自転車の籠に乗ってやる。
しかし、ぺトミンみたいでなんとも恥ずかしい。
そんな吾輩の気持ちを知らず、沙苦里は3つの坂の合するところへ漕ぎ出ると、軽快に大黒坂を下りだした。
この坂は、ゆるやかに〈く〉の字を描いている。
その曲がりきったところで、沙苦里は少しブレーキをかけた。
右側に、旧佐賀藩菩提寺の賢崇寺の参道入り口がある。
その入り口からひょこっと黒ブチの猫が出てきた。籠に入った吾輩を見ると、右前足で虚空を引っかいた。
「あぶねえぞ、拾麿!」
「それは沙苦里に言いな。今夜、午前0時、きみちゃん像の周りに集合だ!」
吾輩が言い返したときには、ママチャリはピ−コックの前を通過し、雑色通りを横断するところだった。横断すればそこはもうパティオ広場である。
今しがた声をかけてきた黒ぶちは雑色通りに古くからある小さな焼肉屋ポソンの飼い猫のトン坊で、吾輩と同じ3歳の男盛りである。
パティオ広場はヨーロッパの小さな街の辻にあるささやかな広場といった趣で、やや傾斜した地形なので低い側からは5,6段の階段で上がる台地状になっている。
きみちゃん像は雑色通り寄りに立ち、台地状中心部に成木に近いケヤキが数本、植えられて木陰を作っている。
その一本の木陰で、50歳前後の太った男が左手にパナマ帽を持ち、右手に持った扇子でタコのような頭をあおいでいた。
パナマ帽を脱いだ直後らしく、赤ら顔の顔と同じく赤い頭から湯気が立ち上っている。
1,2度、夏目家へきたことのある大森海舟だった。
大森海舟は沙苦里に気づいて、
「よう、夏目先生、夕方、お仕事場のほうへ顔を出します。暑気払いをしましょうや」
と、扇子を那須与一の弓の的のようにひらひらさせた。
沙苦里はママチャリを停め、
「暑いですなあ。やりましょう。6時前には”ユダの復活”の原稿が上がりますよ」
と、調子よく応じた。
”ユダの復活”は沙苦里が自分のブログに連載している社会時評で、海舟はそれを数回分読んだところで沙苦里に会いにきたのである。
イボレット出版という電子書籍の端末会社を経営しており、連載が終えたら出版したいというのである。
沙苦里は専門書の著書こそ2,3冊あるが、大部数出版の一般書はまだない。だから、電子書籍出版の話に乗り気で、すぐOKを出している。 
沙苦里は仕事場のある小さなビルの入り口脇にママチャリを駐めると、吾輩を抱いて仕事場のある4階に上がった。
吾輩を下ろしてドアの鍵を開けながら、
「中は蒸し風呂もいいところだぞ。まず、エアコンを点けて2,30分は待たないとな」
と、独りごちるとも吾輩に話しかけるともどっちつかずに呟いた。
しかし、中へ入って吾輩は飛び上がり、沙苦里はひゃーっと叫んだ。
「この前、きたときからエアコンは点けっぱなしだったぞ。こりゃ、風邪を引く。南極になっている」
エコとはほど遠いうかつさに、吾輩は腹を立てるより部屋を飛び出した。
そんな騒動も落ち着いて、吾輩は快適に作動しているエアコンの冷風がほどよく届くところで、まどろんでいた。
いつのまにか海舟がきていて、どら声で沙苦里と話をしている 
「息子と二人暮らしですから、気楽なもんですわ。息子は23歳になりますが、フリーターですわ。名は海月。真ん丸い顔でして、クラゲのようですわ、ガハハ。海月は最初の女房との間の子でして。私が何日も帰らないことが何度かあって、それが3度目のとき、逃げ出しました。仏の顔も3度、ということですな。器量よしの女でしたがね、死んだ夏目雅子似の・・」
「2度離婚したんでしたっけ?」
沙苦里が声を潜めて訊く。
「いや、3度ですわ。2度目はウクライナの女でしたが、故郷の母さんが重病だと言って帰国しましたが、それっきり戻ってこない。なぜか日本の離婚届の用紙を送ってきて、それに判を捺し、区役所へ提出してくれとのことでして・・」
「用意のいいことですな」
海舟の話の腰を折って言わずもがなのことを言う。
「知恵をつけた向こうの男がいたんですわ。風の便りに聞けばその男と所帯を持ったそうで」
「3度目は・・」
沙苦里はだんだん真剣に合いの手を入れるようになった。
”ユダの復活”のネタにしようという魂胆かもしれぬ。
「2度目は沢尻エリカ似でして、3度目は酒井法子似でしてね」
「いや、誰似ということでなしに、どういうわけで、ということですが」
「3度目はT大法学部の大学院生だったんですが、実はまことに他聞を憚ることながら・・」
海舟は、実は、から声を潜め、直後にどら声を張り上げ、
「なんと海月とできてしまい、その子を孕んだんですぞ!」
と、叫んだ。
「これは小説のネタで、エッセイには使えませんなあ」
つい、本音を出す。
「海月が19歳のときのことですわ。今、3度目の女房は3歳になる私の孫と二人で暮らしておりますぞ」
「よくできたお方ですな」
どうも沙苦里はKY的にずれている。
吾輩は海舟のどら声に耳殻を振動させられて眠気が吹っ飛び、立ち上がると大あくびをした。
そろそろ麻布十番の仲間に午前0時の集まりを告げに行かなければならぬ。
吾輩ははもう1度、大あくびをした。
沙苦里が気づけばドアを開けてくれる。
沙苦里はまだ気づいてくれなかったが、海舟が気づいて、
「砂御門家ご出身のやんごとなきお猫殿がお目覚めですぞ」
と、教えた。
「そうそう」
沙苦里はやっとドアを開けにいった。

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

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