パティオ広場の夜は更けて7 パロディ吾輩は猫である2010 志茂田景樹の隊長のブログ作品集|志茂田景樹のWeb絵本-読み聞かせ劇場|しもだ-かげき|直木賞-児童書-作家

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志茂田景樹の隊長のブログ作品集 No.10

 

パティオ広場の夜は更けて7


庭が藪化した元屋敷跡は高さ3メートルの高いブロック塀で囲まれている。
門だったところは鉄柵で頑丈に塞がれている。
しかし、猫が出入りできる隙間はいくらでもある。
吾輩は鉄柵とブロック塀のつなぎ目の下部にできた隙間から、するりと庭へ入った。
とたんに、鬱蒼とした藪景色が迫る。
なにしろ敷地500坪がそっくり薮化しており、吾輩すらその中へ足を踏み入れるにはいささかの勇気がいる。
百日紅、椿、棕櫚、躑躅などの本来の庭木に、潅木類、蔦類、セイタカアワダチソウなどの大型の雑草が繁茂して取り巻き、絡みつきして不気味な様相を呈している。
しかし、人間にはそれとわからぬが猫道ができている。
吾輩はその猫道に踏み入った。
曲がりくねって奥へ続いている。
昼なお暗い。しかし、上り勾配のところを上がりきると、パッと視界が開ける。
池だったところで、中央に池の時代は島だったと思える大岩がででんと鎮座している。対岸だったところに苔むした大きな石灯籠がある。
弁天丸はその石灯籠の笠の上に乗っかって昼寝していた。
笠の縁から長くて太い尻尾をだらりと下げている。
その尻尾には黒褐色の輪の模様が連なっている。
「おーい、弁天丸よう!」
吾輩は大声で呼んだ。
弁天丸は顔を上げて吾輩のほうを窺った。
「なんだい、拾麿の兄貴か」
弁天丸は立ち上がると、ひらりと跳んで大岩に移った。
大きい体に似合わず、恐ろしく身軽である。
弁天丸はタヌキに似た顔を吾輩に向け、
「なにか面白い話でも持ってきたのかい?」
と、猫にしては雄大な尻尾をゆらりと振った。
実は弁天丸は猫ではなく、アライグマである。
そして、吾輩を兄貴と奉るにも理由がある。
弁天丸は鎌倉の山中で生まれている。
弁天丸の9代前の先祖はその地で早くから野生化したという。
10代前までは、カナダのトロント郊外の森林地帯で暮らしていたらしい。
それがどういう経緯で9代前が日本で野生化したかは、弁天丸も語らぬ。
おそらく、知らないのだろう。
それはともかく、弁天丸は1年半ほど前、生まれ故郷を後にして旅に出た。
「わけあっての長旅よ。俺が生まれた鎌倉山中の社会では英語圏派が実権を握っておって  な。俺のようなフランス語圏派は少数派だったさ。まっ、英語圏派に挑んだんだが、裏切り 野郎が出て俺は追放されたのよ。まっ、英語圏派の連中にとってカナダのフランス語圏派出 身で、もともとがやんごとなき血筋の俺が目障りでもあったんだろうがな」
いつだったか、元麻布グループ入りして間もなくのころ、身の上じみたことを語りだした。
そのとき、吾輩は右前足で右耳の上辺あたりを引っかきながら、横目で弁天丸を見た。
何を言い出すのか、一応、聞いてやろうという仕種である。
「兄貴はルーシー・モード・モンゴメリを知ってるかね?」
「なんだい、それは? 人気のスイーツの銘柄かい」
弁天丸は、顎の関節を、ケケケと鳴らして嘲笑した。
「”赤毛のアン”の作者名だよ。教養が薄くてがさつで文学や、美術を理解しない英語圏派 の餓鬼だって知ってるぜ。ま、いいがな。モンゴメリはプリンス・エドワード島に住むフラ ンス系カナダ人の家庭に生まれている。功なり名をとげ、フランス芸術院の会員にも迎えら れた晩年のことになるが、モンゴメリ一家はトロントに移り住んでいる。そのころ、俺の20 何代か前の当主がいつも森を散策するモンゴメリの案内をしてるんだ」
弁天丸は得意げに舌なめずりをしたが、それでどうしてやんごとなき血筋なんだろう。
アライグマであることに変わりはないではないか、と吾輩は内心で弁天丸を憐れんだ。
われら猫族と違い、アライグマは人間に対し卑屈で、人間が後生大事にする血筋とか、家柄とか、学歴とかにこだわり、そういうものを持った人間に媚びるのだろう。
そこへいくと、猫族は人間に媚びはせぬ。
人間はわれらを飼うというが、われらに言わせれば飼わせてやっているのである。
太古の時代からわれらは人間と共生してきたが、生活を共にする場合、餌は人間が供する決まりというか、義務になっている。
昔はよくネズミを捕ってやったそうだが、平成のわれらに特に人間に対する義務はない。
だからと言って、われらは人間を下僕視はしていない。
お互いに誇りを尊び、侵さず侵されず一つ屋根で共生するのが太古以来の不文律である。
ただ、昨今、猫とは言えない誇りを失い、人間に媚び、そのペットに成り下がったペット猫も増えた。
吾輩らはこういう猫もどきをぺトミンと呼んでいる。ペットの民の略である。
ぺトミンときたら牡にもかかわらず、生まれてから死ぬまで部屋の外に出ないやつもいる。
トリミングに通ったり、衣装を着せられてぼうっとしているアホなぺトミンもいる。
4時間も5時間も飼い主に抱っこされて平気なとろいやつもいる。
われらも飼い主の膝に乗ることもあるが、それは飼い主の機嫌をとっているわけではない。
単なる気分転換に過ぎぬ。
話を戻す。弁天丸は流れ流れて、ついにこの元屋敷跡に流れてきた。
吾輩の仲間は総がかりで弁天丸を追い出そうという意見だったが、吾輩は血を見れば仲間にも怪我猫が出ることを案じた。
吾輩はこの池の畔跡に弁天丸を訪れ、話し合いを持った。
弁天丸は山中から平野部の樹林、河川沿いにと旅を重ね、東京都内の緑の濃い公園を飛び石伝いに渡り歩き、この元屋敷跡にくる前は有栖川宮記念公園にいたという。
「鬱蒼とした藪になっているが、ここはたかだか500坪だよ。それで、あんた、食っていけるのかね?」
吾輩は心配して訊いたが、弁天丸はにやっと笑って、
「人間や、あんたらの目にはあまり触れないがよ、カエルもネズミも、ヘビもいる。土中を 掘れば虫の幼虫も出てくる。それに俺らは多分に雑食性だから、公徳心に欠ける人間が塀越 しに捨てるものにもありつける。ここは豊穣なパラダイスみたいなもんだ。いや、俺だけが 棲息する特権を持つサンクチュアリみたいなもんだぜ」
先祖が世界的に名を知られるフランス系カナダ人の女流作家ルーシー・モード・モンゴメリの散歩を案内したというだけあって、弁天丸の言葉遣いは粗野でもその言いようにはフランス教養主義的なものの残滓がクルクル踊っている。
吾輩はそんな弁天丸にささやかに好意を抱き、3つの条件を遵守すればここに棲息してよいと認めた。
3つの条件とは以下の通りである。

1、元麻布グループの一員として品位を保ち、秩序を守ること。
2、昼間は外出を控えること。
3、かりにこの元屋敷跡が整地されるときは速やかに元麻布から出ていくこと。

2は、まっ昼間からアライグマにうろちょろされてはすぐに人間が騒ぎ出し、捕獲だ駆除だ騒ぎになるからである。
弁天丸はこうしてわれらの仲間になった。
見かけによらず、弁天丸にはひたむきなところがあって、仲間の信頼もかち得た。
たとえば、猫の鳴き声をマスターしたことである。
外出は夜に限ると言っても夜でも人と出会えば、怪しい小動物と見られる。
そんなとき、ニャーとないて見せろ、と吾輩がアドバイスしたのである。
その期待に弁天丸はよく応えた。
半年ほど前の深夜、弁天丸がわが夏目家の庭へ遊びにきた。
おりあしく、綾が眠られぬらしく庭へ出てきて弁天丸を目撃した。
「あら、ラスカルじゃないの。なんで、こんなところに」
綾はびっくりして立ちすくんだ。
すかさず、弁天丸は、ニヤーッ、ニヤーッ、としゃがれた声で鳴いた。
「なんだ、猫かあ。鳴き声も器量も悪いわね。でも、変わった種類の猫だわ」
綾は首をひねりひねり、家の中へ戻っていった。
ともかくも、吾輩のお陰でここへ棲めるようになった弁天丸は、吾輩を兄貴と呼ぶようになったのである。
「モンちゃんのお母さんが死んだんだ」
「えっ、そうかよ。モンちゃんにお母さんがいたんだ」
弁天丸は仲間の係累のことにはあまり関心がないらしく、強い反応は見せなかった。
「それで、今夜午前零時、パティオ広場きみちゃん像の周りに集まる。モンちゃんを励ます会の相談をするんだ。
「それは出席するけどよ。ちょいと、兄貴に訊きたいんだ」
弁天丸は目に含羞の色を浮かべた。
「なんだね?」
「猫でも女なら俺の子供を生めるかい?」 〈続く〉

〈続く〉

志茂田景樹-カゲキ隊長のブログ KIBA BOOK 志茂田景樹事務所
 
 

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